2006年12月15日(金)
私は癌になり考えたことはまず「死」です。これは誰しも同じだと思います。また、医師から癌宣告を受けたときまず思ったのは、妻にどう言おうかということでした。たぶん取り乱すのではないかと思ったからです。そして家に帰ってからきちんと話しをしましたが、私が思っていたほどでありませんでした。きっと私に気を使ってくれたのだと思います。
その後は「私は死んでしまうのか」と非常に苦しみどうしたらいいのか、何も手がつかない状態でした。そうこうしているうちに、私は32年間高校と中学で教師をしていましたが、その卒業式で子どもたちに贈る言葉「今が大切」を思い出しました。子どもたちには「私たち人間いつかは死んでしまいます。もしかしたらきょう突然交通事故で死んでしまうかもしれません。だから日々をそして今生きているこの瞬間を大切に生きてください。『今が大切』です」と話してきたとことです。
そのときふと我に返りそのことばの意味の深さを自分自身で本当に実感しました。そうしたら前が開け「生きている喜び」を感じ「自分のできることは何か」を考え始めました。私は生きている、こんなうれしいことはない。今までがむしゃらに生きてきたがこれからは、自分の気持ちに忠実に楽しく生きていこうと強く思いました。
私のできることは何かを考えました。今までやってきた学校での教育や数学を教えること、チェロを演奏することです。そこで前から生涯の仕事として考えていた不登校の子どもたちの自立を支援するための「居場所」つくりだと思いました。そのためには勤めている学校を辞めることになります。さっそく妻に相談したら大いに賛成して後押しをしてくれました。そして家族会議を開き3人の子どもたちにもじっくり話しをしました。子どもたちも賛成してくれ、31年間がむしゃらに働いた学校を退職しました。
さっそく知り合いの方から紹介していただいた不登校児の居場所「フリースペースコスモ」にボランティアに行きました。初めは子どもたちになかなか受け入れてもらえませんでしたが、私が楽しそうなことを始めると興味を持った子どもが少しずつ集まりはじめました。子どもたちと気軽にできるようになるまで1年かかりました。2年目からは算数や数学も指導できようになりました。この2年間の体験が自分で居場所をつくってやっていけるという自信が持て、始めることにしました。さっそくNPO法人にするための勉強と準備を始め、2005年12月に何とか認可が得られ、今年の2月に初めて子どもが通ってくるようになりました。まだ活発な活動はできていませんが、少しずつ前進しています。
できることの2つ目は数学教育ですが、2004年は公立中学で非常勤講師をしました。2005年からは大学で数学の教師を目指す学生に数学教育を中心に指導を始めました。
3つ目は音楽活動です。1989年に自宅を建て替えたときにコンサートができるようにしてやっていましたが、子どもの受験等でしばらく休止していましたが、2005年から再開しました。チェロを演奏するのが好きでその伴奏を頼んで結婚した妻と2人で、少しでも地域のコミュニケーションの場となればとやっています。聞きに来てくださった方が、少しでも心が癒やされ、交流の場になったらと思ってやっています。さらに私がチェロを始めたときに結成したチェロ合奏団も来年40周年の記念演奏会を開きます。
そして一番大切な癌患者同士の情報交換の場としての掲示板の運営です。私が4年10ヶ月前に腎細胞癌になったときは、本を調べてもインターネットを検索しても専門的な内容しかなく、とても不安でした。そこでまず、闘病記をインターネットで公開を始めました。幸い病院にパソコンの持ち込みができたので、公衆電話を利用して書き込んでいました。そのうちにやはり、同じ腎細胞癌の患者同士の情報交換の場が必要と考え掲示板を2002年12月に作り運営してきました。初めて書き込みをされる方は癌告知をされ、どうしたらいいか分からず悲壮感一杯でした。私はまず落ち着いてもらいました。そして腎細胞癌についてよく知ってもらいました。そうしているうちにみなさん落ち着かれ、生きる意欲もなくなっていた方が段々に前向きになり、どう生きていこうかと考えられるように変化していかれました。同じ癌患者同士ですので悩みも同じですし、その中でお互い励まし合っていけるようになってきました。また、最先端の医療技術や抗癌剤等の情報を寄せてくれるようになり、本当に活発な意見交換ができるようになりました。現在1日150から180名位のアクセスがあり、現在合計17万になろうとしています。掲示板の果たす役割の大きさを実感するこの頃です。しかし、患者やその家族の方がすべてインターネットを使えるわけではないので、やはり「患者の会」のような組織が必要だなと感じています。
私は不登校の子どもたちも癌患者もある意味で同じだと考えています。不登校の子どもたちは自分に自信をなくし何とかしたいがどうしたらいいか分からないで悩んでいます。癌患者は告知され生きる意欲までなくなっています。そういう人たちに少しでも生きる喜びや楽しさ、世の中での自分の存在を自覚できるようになってもらいたいと考えています。癌患者にとってはそれが自己免疫力になっていくのだと考えています。
腎細胞癌は他の癌と違い5年転移がなかったらもう安心というわけにはいきません。現実にステージⅠの方でも10年後に転移が見つかった例があります。一生癌と付き合わなければなりませんし、その恐怖とも戦わなければなりません。3ヶ月の検診ごとに心臓がとまる思いをしています。そんな中で同じ癌仲間がいて、気楽に話しができることは本当にほっとできます。インターネット上だけでなくそんな居場所があるどんなにか救われると思います。
腎細胞癌の患者は、見た目はみんな元気そうに見えますが、癌患者には違いません。いつ転移するかわからない癌です。周りの方もその辺をよく理解していただけたらと強く思います。
早く癌は治る病気になるように願っています。